大学入学共通テスト 試行調査問題(平成29年度実施分)の古文についての所感

はじめに

先日、2018年11月10日に、2021年より現センター試験の後継となる大学入学共通テストの試行調査としてプレテストが行われたが、本稿では昨年に行われた試行調査問題の古文について気付いた点を述べる。

問題については、こちらを参照していただきたい。

出典について

文章Ⅰ~Ⅲと三つの文章から構成されている点が、現行センター試験と比べての新しい試みである。文章Ⅰと文章Ⅱは『源氏物語』桐壺からの出典ではあるが、本文には違いがある。
受験生はあまり意識しないことかもしれないが、『源氏物語』などの古文の文章は一つとは限らない。そもそも、紫式部(本当に紫式部によるものなのかさえも確実ではないかもしれない)『源氏物語』がそのまま現在に残っているわけではない。印刷技術などもない時代であるから、書き継がれ現在まで残ってきたのである。当然、書き写した人によって差が生じたり、何を基にしたかによって、本文に違いが生じるのである。その書き写されたものは写本と呼ばれるが、『源氏物語』の写本にもいくつかの系統が存在し、それぞれに違いがあるのだ。

この事情は、『源氏物語』に限ったことではなく、『枕草子』など他の古典作品でも同様である。このような事情を踏まえた上で、文章Ⅲが与えられている。文章Ⅲは文章Ⅱのように本文を整えた事情を語っている文章であると、リード文にあるものの、上記のような事情を知らなければ、三つの文章の関係性を理解することは受験生にとっては難しかったかもしれない。

設問について

問1~問6までの6問であり、傍線説明や解釈、表現とその効果を問うものなど、様々なバリエーションがあった。詳しくは実際の問題に目を通していただきたいが、現行センター試験に比べると、選択肢が短いため、一見取り組みやすそうに見える。

しかし、重要な単語や文法を暗記し、その知識だけで解答できるような問題はなく、本文の内容、文章Ⅰ~文章Ⅲ(特に文章Ⅱと文章Ⅲの)関連性が理解できていないと、解答は難しい部分があった。

もし、このように複数の文章が与えられる形式が定着するとすれば、なぜ複数の文章が与えられているのか、出題者の狙いを考えて突き止めることが必要になるだろう。一つの文章の大意を把握できているか否かが問われるのとはまた違った難しさがあるように感じた。

対策について

前述の通り文章Ⅰ~Ⅲの関連性や、三つの文章が並べられた意図を捉えることが大切ではあるが、一文をしっかりと読めることが出発点となることは変わりない。そのためには文法と単語の知識の習得とその運用、そして古文に読み慣れることだろう。

今回、文法の単独の問題はなかったが、読むために文法が不可欠であることは疑いの余地はない。そういう意味では、今まで言われてきた古文の対策のままで十分に対応できるだろう。日ごろの学校での授業と、予備校や塾に通っていればそこでの予習・復習を大切にし、古文を読む経験を積んで行くことだ。

教える側が意識すること

写本や諸本の問題については、古典文学研究を行う際には必ず通る道である。『古典文学の常識を疑う』(勉誠出版)の中の、山中悠希「諸本論は『枕草子』研究を革新できるか」などを一読しておくと、授業を考える際のヒントになるかもしれない。

また、平成27年の明治大学経営学部の過去問では、『十訓抄』から小大進が待賢門院の衣を盗み出した罪を着せられ、北野天満宮に籠り、天神に歌を捧げたことで罪がはれたエピソードが文章Ⅰ、「古今和歌集仮名序」が文章Ⅱとして出題されていた。文章Ⅰの歌徳の根本となる思想を語るのが文章Ⅱである。この例以外にも、複数の文章が出題された例は今までにもあった。

古典世界では、基盤となっている共通の知をもとにしている記述が少なくない。複数の文章が与えられずとも、たとえば注で、引き歌の全体を示したり、漢詩がもとになった記述であることを出題者が教えてくれていたりする。受験指導にせよ、学校現場での国語の授業にせよ、そういった共通の知について、積極的に教えていくことで、古典の世界が積み重ねの上に成り立っていることを生徒に意識させることは重要なのではないだろうか。

おわりに

本稿では、29年度の試行調査に限っての所感を述べた。そのため、30年度の試行調査を並べて考えてみた時には、また違ったことを述べることになることもあろうかと思う。また、個々の問題についての詳しい考察までは踏み込んでないため、物足りなく感じる部分もあるだろうが、あくまで全体を見渡しての所感を述べることが目的のため、ご容赦願いたい。

今後も、新テストの古文(機会があれば漢文も)について、考えたことを述べるつもりでいるので、お付き合いいただけたら幸いである。


記事内で紹介した書籍

『古典文学の常識を疑う』(勉誠出版)
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