「チャンスなんて一瞬だと思っていたので、もうこの話が来たときにはすぐに『やろう』と決めていました」


――退社後、この「眞か」を立ち上げる前のことを教えていただけますか?

伊藤:漠然と「30歳ぐらいで、自分の足で前進していきたい」という思いがありました。

僕は目の前に落ちているものを花開かせることができるタイプなので、「業界や業種を手段に、最終的に自分がやりたいことや信念を達成できればいい」と思っていました。だから、特に飲食をやろうと思って会社を辞めたわけではなかったんです。

STUDIOUS で立ち上げをしていたときは本当に好き放題やらせてもらっていて、年上の後輩とか部下もたくさんいたので、少し思考が偏っているかもしれないと感じていました。そこで「年下の上司」の存在や、「理不尽なことを言われることに対して、自分はどう思うのだろう」ということを経験してみようと思って、銀座の少し厳しそうな歴史のあるバーを叩いてアルバイトをすることにしたんです。

バーには、やはり「守ってきたものがある」とか「守らなきゃいけないものがある」というものもすごくあって。そういう意味ではやはり、本当に自由な発想で仕事をするというのが楽しいなと感じました。

かといって別にそこの環境に不満があったわけでは全くなく、その環境下でも「こういうふうにやれば売り上げが上がる」というのを自分で考えて働いていました。嫌々働くよりもその方が得じゃないですか。

僕は「絶対こうしなければいけない」「この道しかない」というような生き方をしていなかったこともあり、目の前にあることを積み上げていき、自分で自分が考えたコンセプトを世の中に訴えかけていけるようなことになればと思っていました。

そして、そのバーで働いている間にこの店舗の話が来たのが「眞か」をオープンすることになったきっかけです。たまたま前の会社で一緒に仕事をしていたPR会社の社長さんがこの場所でお店を展開していたのですが、「飲食からちょっと手ひこうと思うからどうだ」というような話をいただきました。

――そこから実際に「眞か」を立ち上げるまでのことを教えていただきたいです。
伊藤:その銀座のお店でも徐々に評価を得つつあったので、良いポジションを与えてもらったり、「あと2、3年やったらもう1店舗やってもらいたい」というような話があったりもしていた時期に、並行してこのお店の話がありました。板挟みです(笑)。

とはいえ、そもそもチャンスなんて一瞬だと思っていたので、もうこの話が来たときにはすぐに「やろう」と決めていました。

それでもやはり、辞めるとなるとバーにも迷惑はかかるので「少し猶予期間が欲しい」と話していたのですが、先方からは「それではタイミングが合わない」という返答でした。こうして追い込まれたことで心を決めたというのが一番大きいかもしれないですね。

 

食×伝統×ファッション

伊勢海老のポタージュパスタ

――「眞か」のメインに伊勢海老を据えたいきさつを教えていただけますか?
伊藤:会社の経営も初めてだったので、当初はいろいろ調べてもいたのですが、調べれば調べるほど世の中の情報に惑わされて臆病になってくる。それで、途中からは「もう見ない方がいい」と思ったんです。「気づいたら冒険している」状態を作ったらもう向き合うしかなくなるわけじゃないですか。逃げ道をもうなくそうと思って、いろいろ調べるのを一切やめて、立ち上げることに決めました。

もともと僕は「無茶ぶり」で成長してきたところがあるので、逆に無茶ぶりのときの方が本気になれたりするんですよね。
とはいえ、データ主義だった前職時代の経験もあって、当然データは見ていますし、無意識のうちに最低ラインのリスクマネジメントもできていると思います。

コンセプトを決めるにあたり、20代にずっとやってきたアパレルという自分のバックボーンを完全に消し去るというのは違う、何かで生かせないかと考えていました。それに、その時もかなりお肉が流行ってはいましたが、「どうせ独立するなら誰もやっていないことやろう」と思ったんです。

STUDIOUSが日本に特化したセレクトショップだったこともあり、「食×伝統×ファッション」をコンセプトに決め、それに当てはまるような食材、日本で誇れる高級食材の伊勢海老をメインに据えることにしました。

――お皿や器に伝統陶器を用いているのも特徴的ですよね。
伊藤:コンセプトの「ファッション」は概念的な意味合いも強いのですが、それを表現する一つの形として伝統陶器を使おうというのは最初から決めていましたね。

眞か鉄板焼きプレート

毎年10月の第3日曜日とその前日土曜日に岡山県の伊部というところで街を挙げて行われる「備前焼まつり」では、備前焼の作家さんたちが自ら陶器を販売しているので、どんな方がどのような作品を作られているのか見ることができます。

眞かをオープンする半年以上前に、「こういうことをやっていきたい」という気持ちをぶつけに行こうと創業メンバー2人でなけなしのお金をポケットに握りしめてこの「備前焼まつり」に突撃しました。開催されていた2日間でほぼ全て回って、惹かれた作家さんには、「こういうことをやっていきたいので、自分たちのデザインで作ってもらうこともできませんか」という話をひたすらしていったんです。

反応は様々で、「本当にお店ができたら言ってください」と断られた作家さんもいました。でも、その時の僕らの熱い思いに賛同してくれた作家さんとは今でもやっぱりすごく深い付き合いになっていますし、取引も増えたり、一緒に活動したりもしているので、すごくそれは思い入れがあります。

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「『日本の良いものを紹介しよう』という軸はブラさないようにしています。」

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