2020年センター試験 第1問 評論 河野哲也『境界の現象学』解説

出典について

河野哲也『境界の現象学』

「レジリエンス」という概念についての説明がなされた文章。
耳慣れない言葉に戸惑うかもしれませんが、そもそもそのような言葉には本文中に定義がなされている部分を探しながら読んでいく意識があれば、内容や概念の把握はそこまで難しくないと思われます。

所感

今年の受験生で、センター試験中に「レジリエンス」や「サステナビリティ」の語に戸惑い、評論を失敗したのであれば、このような「あまり聞き慣れない言葉」は「定義」(その言葉の文章中の意味)を探しつつ読むべきである、という点を反省しましょう。私大や国公立の二次試験でも問われます。
また、高校1-2年生は自分の知っている範囲の言葉や世界に留まらず様々な文章をよむ経験を積みましょう。「読む体力」の鍛錬こそが読解力向上に大きく寄与するのです。
 

解答

【問1】ア=⑤ イ=① ウ=① エ=④ オ=⑤
【問2】②
【問3】③
【問4】②
【問5】②
【問6】(ⅰ)=① (ⅱ)=④

設問別解説


各設問についての解説は以下の通り。

設問別解説——問1[漢字]

ア 促進
[①=結束 ②=目測 ③=捕捉 ④=自足 ⑤=催促]
イ 健康
[①=小康 ②=候補 ③=更迭 ④=甲乙 ⑤=技巧]
ウ 権限
[①=棄権 ②=堅固 ③=嫌疑 ④=検証 ⑤=勢力圏]
エ 偏って
[①=編集 ②=遍歴 ③=返却 ④=偏差値 ⑤=変調]
オ 頑健
[①=対岸 ②=主眼 ③=岩盤 ④=祈願 ⑤=頑強]

強いて言うならオの「頑健」はやや難しいか。他は標準

設問別解説——問2[内容説明]

<傍線部分析>
・指示語の「そこ」の内容の確定

・「微妙な意味の違い」とあるので、指示語内容について意味の違いがあるようだ。その内容を押さえる。

<根拠の作成>

・「そこ」
=「レジリエンス」と「回復力やサステナビリティ」
・「微妙な意味の違い」
=「レジリエンス」は「固定的な原型を想定していない」。その上で、「絶えず変化する環境に合わせて流動的に自らの姿を変更させつつ、目的を達成する」のである。
一方、「回復力やサステナビリティ」は「あるベースラインや基準に戻ること」を意味するのである。
<正解>

<その他の選択肢>
①前半の「回復力やサステナビリティには基準となるベースラインが存在しない」が誤り。
③前半の「回復力やサステナビリティは環境に応じて自己を更新し続ける」が誤り。
④後半の「レジリエンスは均衡を調整する」が誤り

⑤後半の「レジリエンスは自己を動的な状態においておくこと自体を目的とする」が誤り。ここがやや悩みどころか。

設問別解説——問3[内容説明]

<傍線部分析>
・指示語の「ここ」の内容の確定
・「脆弱性」の本文中における定義の確認

<根拠の作成>

・「ここ」
=ソーシャルワークの分野の話
→ここは意外と押さえにくいかもしれませんが、文の流れから判断する。

・「脆弱性」の定義
=「変化や刺激に対する敏感さを意味しており、このようなセンサーをもったシステムは、環境の不規則な変化や撹乱、悪化にいち早く気づける」という内容。

<正解>

<その他の選択肢>
①「依存」が内容の中心であるので誤り。
②「脆弱性」の定義が「変化の起こりにくい環境に変化を起こす刺激」となっているのが誤り。
④「脆弱性」の定義が「均衡状態に戻る溜の重要な役割を果たす」となっているのが誤り。 問2で④⑤を選ぶと引っ張られるかもしれない。
⑤ 「脆弱性」の定義が「人の回復力が不十分な状態にあることを示す尺度」となっているのが誤り。

設問別解説——問4[内容説明]

<傍線部分析>
・指示語の「それ」の内容の確定
・「ミニマルな福祉の基準」の内容の換言

<根拠の作成>
・「それ」
=「レジリエンスがこうした意味での回復力を意味する」ことである。では「こうした」の内容を明らかにする。
→直前の「レジリエンスは、複雑なシステムが、変化する環境の中で自己を維持するために、環境との相互作用を連続的に変化させながら、環境に柔軟に適応していく過程のことである」を押さえる
・「ミニマルな福祉の基準」
=直後の「すなわち」という接続語に注目したい。「ある人が変転する世界を生きていくには、変化に適切に応じる能力が必要であって、そうして柔軟な適応力を持てるようにすることが、福祉の目的である。」とある。では、そのミニマル(=最小の)な基準とは何か。
→13段落に「自分自身で自分のニーズを能動的に充足すること」が必要とある。この力を本人に獲得させることが福祉においての最小の基準なのだ。(その外に様々な制度などの整備があるのだろう)

<正解>

<その他の選択肢>
①最後の「社会体制の整備」が誤り。あくまでも個人に働きかけるのが「福祉」の「最小の基準」である。制度などは最小ではない。
③前半の「個人が環境の変化に影響を受けずに」が誤り。
④後半の「支援者には被支援者のニーズに応えて満足してもらえるように尽力すること」が誤り。選択肢の文構造を確認しよう。
⑤全体が「金銭」のみの話になっているので謝り。

設問別解説——問5[対話文内の空所補充]

空欄補充なので、前後の情報をしっかりと把握して内容を考えよう。

空欄前後の生徒Cと生徒Bの会話は「動的」がテーマになっている。よって、本文中における「動的」の意味合いを押さえると、ここまでの設問でも確認してきた「レジリエンス」の概念にたどり着く。動的なのは「変化する環境」の話であり、そこから目的に向けて対応していく、というのがここで言う「動的」の意味内容だろう。

これを踏まえて正しい答えを考えるのだが、具体的な答えを求めるときは上記の通りまずは「抽象的」に根拠を求め、そこから具体化をしていこう。

<正解>

「部長になって以前のやり方を踏襲した」は「動的(=変化)」な環境を気にかけていないことである。
その後、現状(=動的な環境)に合わせるために工夫することは、現実に合わせた「対応」を意味する。よって正解は②である。

<その他の選択肢>
①休まず練習をする「継続性」の話ではない。
③「個性の伸長」の話ではない。
④「予想して」いく話ではない。
⑤「オンとオフの切り替え」の話ではない。

設問別解説——問6(ⅰ)[表現理解]

正解は①

<その他の選択肢>
②「筆者が独自に規定した意味」が誤り。
③「本来好ましくないが」が誤り。
④「敬意を示す」以降が誤り。

設問別解説——問6(ⅱ)[文章の展開・構成]

正解は④
「一般的な理解」と「筆者の立場」の対比構造は13段落には存在しない。

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