数学Ⅲで登場する自然対数の底「ネイピア数」の定義と出所

どうも, みなさんこんにちは。
高橋佳佑です。

今回は数学Ⅲに登場するネイピア数\(e\)という定数についてお話しします。

この定数\(e\)には素晴らしい性質があります。

関数\(e^x\)は
$$\frac{d}{dx}e^x=e^x$$
$$\displaystyle\int e^xdx=e^x+C$$
となり, 微分しても積分しても形を変えません。さらに, この\(e\)を底とする対数\(\log_ex\)は, 自然対数とよばれ, $$\frac{d}{dx}\log_e|x|=\frac{1}{x}$$$$\int\frac{1}{x}\ dx=\log_e|x|+C$$となります。底\(e\)は省略され, \(\log x\)と表されることがあります。

これらは微積計算において大変便利な性質です。

ここで登場するネイピア数\(e\)とはどのような数なのでしょうか。
定義とその出所を見て行きましょう。

記事の後半の「日常の現象における\(e\)」では, ぜひ挑戦してほしい極限計算がありますのでトライしてみてください。

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覚えておきたい「ネイピア数\(e\)の定義」2つ


メジャーな定義は次の2つです。

ネイピア数のメジャーな定義

$① \displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=e\\
② \lim_{t\to0}(1+t)^{\frac{1}{t}}=e$

この他にも, ネイピア数\(e\)を定義する方法があります。上の2つの定義は覚えておきましょう。

\(e\)の起源は1700年代

\(e\)という記号は,1700年代に数学者オイラーが自然対数の底を意味する数として用いて広まりました。

対数の概念は1600年序盤にネイピア, ブリックスらによって確立され, 常用対数を表でまとめたものを出版していますが, 当時は自然対数を表す記号は一般的ではありませんでした。

ちなみに, オイラーはこの\(e\)以外にも, 円周率\(\pi\)や三角関数\(\sin\), \(\cos\), \(\tan\)も記号化し, 現在使われている記号とほぼ同様なものを用いて広めた人でもあります。

ここで, \(e\)の定義

$① \displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=e\\
② \lim_{t\to0}(1+t)^{\frac{1}{t}}=e$

について考えてみましょう。

\(①\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=e\)について

この定義の由来は連続福利という考え方にあります。

話を簡潔にします。

お金をある機関に預けることを考えてください。その機関は一定時間経つと預けているお金に対して利益をつけてくれます。

ここで次のような機関を考えます。

最初に預けた金額を,
$1$年で$\left(1+\frac{1}{1}\right)$倍にしてくれる機関
$\frac{1}{2}$年で$\left(1+\frac{1}{2}\right)$倍にしてくれる機関
$\frac{1}{3}$年で$\left(1+\frac{1}{3}\right)$倍にしてくれる機関
$\vdots$
$\frac{1}{n}$年で$\left(1+\frac{1}{n}\right)$倍にしてくれる機関

このように短い時間で利益をつけてくれる機関を想定し, 1年後にお金はどうなっているのか調べてみます。

\(\frac{1}{2}\)年で\(\left(1+\frac{1}{2}\right)\)倍にしてくれる機関の場合, 1年で2回利益をつけてくれるので, 1年で\(\left(1+\frac{1}{2}\right)^2\)倍にしてくれると考えます。
\(\frac{1}{3}\)年で\(\left(1+\frac{1}{3}\right)\)倍にしてくれる機関の場合, 1年で3回利益をつけてくれるので, 1年で\(\left(1+\frac{1}{3}\right)^3\)倍にしてくれると考えます。

以下同様にして考えてみると,

$1$年で$\left(1+\frac{1}{1}\right)$倍にしてくれるとき, $1+\frac{1}{1}=2$倍
$\frac{1}{2}$年で$\left(1+\frac{1}{2}\right)$倍にしてくれるとき, $\left(1+\frac{1}{2}\right)^2=2.25$倍
$\frac{1}{3}$年で$\left(1+\frac{1}{3}\right)$倍にしてくれるとき, $\left(1+\frac{1}{3}\right)^3=2.370\cdots\cdots$倍
$\vdots$
$\frac{1}{100}$年で$\left(1+\frac{1}{100}\right)$倍にしてくれるとき, $\left(1+\frac{1}{100}\right)^{100}=2.704\cdots\cdots $倍
$\vdots$
$\frac{1}{1000}$年で$\left(1+\frac{1}{1000}\right)$倍にしてくれるとき,$ \left(1+\frac{1}{1000}\right)^{1000}=2.716\cdots\cdots$倍
$\vdots$
$\frac{1}{10000}$年で$\left(1+\frac{1}{10000}\right)$倍にしてくれるとき,$\left(1+\frac{1}{10000}\right)^{10000}=2.718\cdots\cdots$倍
$\vdots$

これらの結果から, \(2.71\cdots\cdots\)という値に近づいていきそうということが分かります。実は, 数列\(\left\{\left(1+\frac{1}{n}\right)^n\right\}\)は\(2.71828\cdots\cdots\)という値に収束することが分かっており, これを$$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=e$$
と定義します。

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\(②\displaystyle\lim_{t\to0}(1+t)^{\frac{1}{t}}=e\)について

導関数の定義にしたがって\(y=\log_ax\)という関数を微分することを考えてみましょう。
\begin{align*}
&\displaystyle\lim_{h\to0}\cfrac{\log_a(x+h)-\log_ax}{h}\\
=&\lim_{h\to0}\cfrac{\log_a\left(\frac{x+h}{x}\right)}{h}\\
=&\lim_{h\to0}\cfrac{\log_a\left(1+\frac{h}{x}\right)}{h}\\
=&\lim_{h\to0}\cfrac{1}{h}\log_a\left(1+\frac{h}{x}\right)\\
\end{align*}
ここで, \(\frac{h}{x}=t\)とおくと, \(h\to0\)のとき\(t\to0\)で, \(h=xt\)となるから,
\begin{align*}
&\displaystyle\lim_{h\to0}\cfrac{\log_a(x+h)-\log_ax}{h}\\
=&\lim_{h\to0}\cfrac{1}{h}\log_a\left(1+\frac{h}{x}\right)\\
=&\lim_{t\to0}\cfrac{1}{tx}\log_a(1+t)\\
=&\lim_{t\to0}\cfrac{1}{x}\cdot\cfrac{1}{t}\log_a(1+t)\\
=&\lim_{t\to0}\cfrac{1}{x}\log_a(1+t)^{\frac{1}{t}}\\
\end{align*}
このとき, \(\displaystyle\lim_{t\to0}(1+t)^{\frac{1}{t}}\)の極限を調べる必要があります。上と同様の式になりますが,
$$t=\cfrac{1}{10}のとき, \left(1+\cfrac{1}{10}\right)^{10}=2.593\cdots\cdots$$
$$\vdots$$
$$t=\cfrac{1}{100}のとき, \left(1+\cfrac{1}{100}\right)^{100}=2.704\cdots\cdots$$
$$\vdots$$
$$t=\cfrac{1}{1000}のとき, \left(1+\cfrac{1}{1000}\right)^{1000}=2.716\cdots\cdots$$
$$\vdots$$
$$t=\cfrac{1}{10000}のとき, \left(1+\cfrac{1}{10000}\right)^{10000}=2.718\cdots\cdots$$
$$\vdots$$
となり, \(2.71828\cdots\cdots\)という値に収束することが知られています。したがって,
$$\lim_{t\to0}(1+t)^{\frac{1}{t}}=e$$
と定義します。

さらに, 曲線\(y=a^x\)の点\((0, 1)\)における接線の傾きが1になる\(a\)の値を求めてみましょう。つまり,$$\displaystyle\lim_{x\to0}\cfrac{a^x-1}{x}=1$$となる\(a\)を求めます。

\(a^x-1=t\)とおくと, \(x\to0\)のとき, \(t\to0\)であり, \(a^x=t+1\)から, \(x=\log_a(t+1)\)なので, $$\lim_{x\to0}\cfrac{a^x-1}{x}=\lim_{t\to0}\cfrac{t}{\log_a(t+1)}=\lim_{t\to0}\cfrac{1}{\frac{1}{t}\log_a(1+t)}=\lim_{t\to0}\cfrac{1}{\frac{1}{t}\log_a(1+t)^{\frac{1}{t}}}=\cfrac{1}{\log_ae}$$
となります。したがって, \(\log_ae=1\)から\(a=e\)となるわけです。よって, $$\displaystyle\lim_{x\to0}\cfrac{e^x-1}{x}=1$$となります。実はこれを\(e\)の定義とすることもあります。

このように\(e\)はいろいろなところから出現するのです。どれか1つを定義とすれば, 他の式は性質として導けます。

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\(e\)は日常の現象にも潜んでいる

数学の分厚い問題集は「問題辞書」として利用しよう
日常の中にも自然対数の底\(e\)が現れることがあります。今回は2つ紹介しましょう。

プレゼント交換会

\(n\)人でプレゼント交換会を開くとしましょう。

各自プレゼントを1つ用意し, 自分が誰のプレゼントを受け取るかをくじ引きで決めるとします。このとき, 全員が自分の用意したプレゼントに当たらないとき成功とします。

1回のくじ引きで成功する確率はどうなるでしょうか。

上のようなプレゼントの受け取り方を完全順列や攪乱順列と呼んだりします。

そして, \(n\)を大きくしていくと成功する確率は\(\frac{1}{e}=0.367\cdots\cdots\)に近づいていきます。実際にこれを計算するときは, 今回紹介した定義以外のことを考えるのでここでは省略します。

「【レベル別】数学Ⅲの微積分を攻略する勉強法」で紹介したマクローリン展開に関係します。

また, この話は席替えのお話と考えることもできて, その場合「席替えをした時に全員が別の席になる確率が\(\frac{1}{e}\)」となります。

稀な現象が起こる確率

現行過程において数学B「確率分布と統計的な推測」で登場する二項分布の特殊な場合を考えてみましょう。

新課程になりこの分野が必修になることから, この話を題材にした問題が入試で出題されるかもしれません。
現行過程で数学B「確率分布と統計的な推測」を選択しない人は, 極限の計算だけでも見てみて下さい。

確率変数\(X\)が二項分布\(B(n, p)\)に従うとき,\(X=k\)となる確率は$$P(X=k)=_n{\rm C}_kp^k(1-p)^{n-k}$$となります。期待値\(E(X)=np\)を一定の値\(\lambda\)すなわち\(np=\lambda\)とし, \(n\to\infty\)とした極限を考えます。

現行過程で数学B「確率分布と統計的な推測」を選択しない人は, 分布などの統計的な話は置いておいて, この極限の計算を考えてみましょう!

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\(\lambda=1\)とした極限の出題例

\(\lambda=1\)とした極限は昔九州大学で出題されていました。

例題

$np=\lambda$のとき, $\displaystyle\lim_{n\to\infty}{}_n{\rm C}_kp^k(1-p)^{n-k}$を求めよ。ただし, ${}_n{\rm C}_k$は相異なる$n$個のものから$k$個のものを選ぶ組み合わせの総数とする。

\begin{align*}
&\displaystyle\lim_{n\to\infty}{}_n{\rm C}_kp^k(1-p)^{n-k}\\
=&\lim_{n\to\infty}\cfrac{n!}{k!(n-k)!}\left(\cfrac{\lambda}{n}\right)^k\left(1-\cfrac{\lambda}{n}\right)^{n-k}\\
=&\lim_{n\to\infty}\cfrac{\lambda^k}{k!}\cdot\cfrac{n(n-1)(n-2)\cdots\cdots(n-k+1)}{n^k}\cdot\left(1-\cfrac{\lambda}{n}\right)^{n-k}\\
=&\lim_{n\to\infty}\cfrac{\lambda^k}{k!}\cdot\cfrac{n}{n}\cdot\cfrac{n-1}{n}\cdot\cfrac{n-2}{n}\cdot\cdots\cdots\cdot\cfrac{n-(k-1)}{n}\cdot\left(1-\cfrac{\lambda}{n}\right)^{n-k}\\
=&\lim_{n\to\infty}\cfrac{\lambda^k}{k!}\cdot\left(1-\cfrac{1}{n}\right)\left(1-\cfrac{2}{n}\right)\cdots\cdots\left(1-\cfrac{k-1}{n}\right)\cdot\left(1-\cfrac{\lambda}{n}\right)^{n-k}\\
\end{align*}

ここで,
$$\lim_{n\to\infty}\left(1-\cfrac{1}{n}\right)\left(1-\cfrac{2}{n}\right)\cdots\cdots\left(1-\cfrac{k-1}{n}\right)=1$$
であり, さらに\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)^n=\lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)^{-n\cdot(-1)}=e^{-1}\)となることを認めて,
$$\lim_{n\to\infty}\left(1-\cfrac{\lambda}{n}\right)^{n-k}=\lim_{n\to\infty}\left(1-\cfrac{\lambda}{n}\right)^{-\frac{n}{\lambda}\cdot\left(-\frac{\lambda}{n}\right)(n-k)}=\lim_{n\to\infty}\left(1-\cfrac{\lambda}{n}\right)^{-\frac{n}{\lambda}\cdot\left(1-\frac{k}{n}\right)(-\lambda)}=e^{-\lambda}$$
となるから,
$$\lim_{n\to\infty}{}_n{\rm C}_kp^k(1-p)^{n-k}=\cfrac{\lambda^ke^{-\lambda}}{k!}$$
となります。

これは稀にしか起こらないことが単位時間あたりに起こる確率を表しており, 確率分布はポアソン分布と呼ばれます。

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ポアソン分布の実践

例えば, 私がEducational Loungeに記事の執筆をするとき, 1本の原稿の中に現れる誤字数の平均が1文字だとします。記事1本の中の誤字数\(X\)はポアソン分布に従うとみなせ, 上の例だと\(\lambda=1\)の場合です。\(k\)文字の誤字がある確率は$$P(X=k)=\cfrac{e^{-1}}{k!}$$となります。実際次の記事を執筆したときに1文字誤字がある確率は$$P(X=1)=\cfrac{e^{-1}}{1!}=\cfrac{1}{e}=0.367\cdots\cdots$$
となります。もちろん執筆し終わった後にチェックしますから, 公開するまでには修正されていますが。

このポアソン分布は日常でもよく使われる確率分布で, 例えばある地域で1日に起きる交通事故の件数などにも利用されます。

ポアソン分布以外にも正規分布などの有名な確率分布において自然対数の底\(e\)はよく登場します。

おわりに


今回は数学Ⅲに登場するネイピア数\(e\)という定数についてお話ししました。

様々なところから\(e=2.71828\cdots\cdots\)という定数が出現するので, 定義の仕方はいろいろあります。このうちどれかを定義とすれば他は性質として導けます。

さらに, 自然対数の底\(e\)は日常にも隠れていることが伝わると嬉しいです。実際, それを実感することはおそらくないと思いますが, 非常に重要な数です。

それでは,今回はこの辺で!

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