記述の添削で指導者が気をつけたいこと——中学受験生への記述指導

自由が丘、三田の中学受験専門塾、スタジオキャンパス代表の矢野耕平先生が、主に国語指導者に向けて発信する新「中学受験の現場から」。
日頃、自身の指導科目や中学受験生たちと向き合う中で矢野先生はどのようなことを考えているのか――。

記述の添削で気をつけたいこと

中学受験専門塾スタジオキャンパス代表の矢野耕平と申します。

Educational Loungeで前回、前々回に公開した記事の続編です。


指導者の方が子どもたちの記述を添削する上で大切にしていることは何でしょうか。わたしは以下の3点を挙げたいと思います

①正解は示さず、そこに至るヒントのみ記載する。
②表現上の誤りははっきりと指摘する。
③子どもたちが再度やり直した記述解答のチェックを欠かさない。

表現上の誤りははっきりと指摘する。

そうはいっても、国語指導を始めたばかりの人にとっては、添削は時間がかかるし、難しく感じるでしょう。

そこで、今回は上記の②の点にスポットを当てて、小学生の子どもたちがミスしてしまいがちなチェックポイントを7項目に分けて示したいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

表現上の誤りははっきりと指摘する①――主語と述語の不一致

▶︎述部に対応する主部が明記されているかチェックする

【ミスの例】
うしろの席から体をつついてきたので、ふりかえったら、担任の先生にカンニングをしたと疑われて悲しい気持ちになった

A・Bともに「誰が」という主語が省かれてしまっています(2か所あるBの主語は同じ)。ここを明確にしておきましょう。

表現上の誤りははっきりと指摘する②――同じ意味の重複

▶︎ことばの意味を考えながら記述する

【ミスの例】
日本はとりわけ山地の占める割合が高い国として特徴的であり、限られた平野の一部を使って多くの人手を動員して農業をおこなうしかなかった。だからこそ、日本に住む人たちは他者との関わりを過剰に意識し過ぎるのだろう。

→A・B・Cそれぞれが「意味が重複」しているため、おかしな文章になっています。

 

表現上の誤りははっきりと指摘する③――設問の条件の読み違え

▶︎文末の形に注意!

【問題例①】傍線部「彼はぽつんとたたずんでいた」とあるが、それはなぜか。文中のことばを用いて答えなさい。

【ミスの例】
仲良しだった太郎くんが遠いところへ引っ越しをしてしまったので、たけしはとてもさびしい気持ちになった。

→文末を「~から。」で締めよう。

 

【問題例②】傍線部「対立する文化が生み出す宝物」とあるが、これを具体的に言い換えている部分をぬき出して答えなさい。

【ミスの例】
自国と正反対の文化に出くわすことで、自らの習慣や価値観をはじめて相対的に判断できることに気が付く。

→「~宝物」の言い換えなので、「~判断できること」で終わらせよう。(「宝物」「こと」ともに名詞です)

 

表現上の誤りははっきりと指摘する④――読点の打ち過ぎ


▶︎「息継ぎ」「接続語」「長い主語」「並列」

【ミスの例】
わたしの、夢を、こわした、事件が、ゆるせず、またそのことを、すぐに、謝らない山田に対して、いらいらした。

【訂正例】わたしの夢をこわした事件がゆるせず、また、そのことをすぐに謝らない山田に対していらいらした。

→読点「、」の打ちすぎに注意しましょう。文章が読みづらくなってしまうだけではなく、減点対象にもなってしまいます。
読点を打つ場所として以下の4点を挙げておきます。

①心の中で「音読」して「息継ぎ」をするところ
②接続語の直後
③長い主語の直後
④並列関係を示すところ
例)バナナ、りんご、いちごが好きだ。

 

表現上の誤りははっきりと指摘する⑤――何を指しているかわからない

▶︎あいまいな表現、指示語の濫用に注意する

【ミスの例】
彼はこのことが原因で社会的慣行を逸脱したおこないに手を染めてしまい、彼の属している業界から非難の声があがった。

→A・B・Cに共通しているのは、「具体的に何を指し示しているのかが分からない表現」であるという点です。ここをそれぞれ具体化することが大切です。

 

表現上の誤りははっきりと指摘する⑥――同一表現の繰り返し

▶︎指示語を効果的に用いる

【ミスの例】
日本語はあいまいな意味を多く含む言語と言われるが、他言語を調査してみると、意外にあいまいな意味を持つことばが多く存在していることが判明した。

→AとBは「同一表現」になっているため、Bを指示語に置き換えることで、よりすっきりした文章に変えましょう。

【訂正例】日本語はあいまいな意味を多く含む言語と言われるが、他言語でも意外とその傾向がよく見られることが判明した。

表現上の誤りははっきりと指摘する⑦――比喩表現を用いない

▶︎具体的な内容に仕上げる

【ミスの例】
彼女のことばがとげのようにつきささったまま何も言えない自分がくやしくて、またどうすればよいのかが分からず、あたかも見知らぬ場所に迷い込んだような思いを抱いた。

→A・Bは比喩表現です。比喩とは「具体的な事柄をあえて抽象化する」働きがあり、具体性を求める記述答案では比喩を使ってはいけません。

 

おわりに

いかがでしたか。子どもたちが犯してしまいがちなミスのパターンを紹介しました。添削指導の際にご活用ください。


「中学受験の現場から」記事一覧
第一回 記述作業こそ読解の基礎である――中学受験生への記述指導
第二回 語彙力・記述力向上に役立つ「ことばしらべ」―中学受験生への記述指導
第三回 記述の添削で指導者が気をつけたいこと——中学受験生への記述指導
第四回 合格者よりも不合格者に目を向ける――中学受験生への進路指導

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