#39 善の顔をした悪——像に溺れる【ANOTHER STORY —ヤナガワ—】

どっちにせよジゴウジトクは止まらなかった。
タバコは誰かにチクられ停学になった。
暫定パパは私に悪魔の因子が入り込んだといって家には空気清浄機が置かれ、霊験あらたかな水がドバドバ注入されては散布された。
私が近づくと空気清浄機はすごい勢いで反応し、私の肺にこびりついた悪魔の因子を責め立てた。

冷蔵庫からは肉がなくなり、豆とか穀類ばっかになった。
小学校のニワトリ小屋の餌場を思い出した。
小屋と穀類は相性がいいらしい。

ゴウは胃と肺のなかに吹き溜まるのだろうか。
それなら田舎で自給自足でもしてればよかった。
でも、田舎だろうがエンコー女にされるのには変わりなさそうだ。
エレキギターが目玉の奥をブルブルふるわせ、内臓の中身をぶちまけたいような気分にさせる。

高橋はそのうち私に近づかなくなった。
ちょうど夏休みが明けたあたりからだった。
飼育員よりも有意義な仕事を見つけたのかもしれない。
たまにちらちらこっちを見てきたけど、話しかけてくることはなかった。
望み通り、周りからカイト、カイトと呼びかけられ忙しそうだった。

知らない男子に話しかけられることが何度かあった。
同じ表情で同じ値段を口にした。
そいつらの脳に映った私の姿が目の奥に見えた。
そのたびそいつを蹴り上げた。
三度目のヤツがチクって停学になった。
テストの点数が落ちた。

暫定パパは私のなかの悪魔因子を除去する動きを本格化させた。
外食に行こうと連れ出され車で2時間、着いたのは周りに何もない山小屋だった。
そこから出てきたカラスっぽいオッサンに私を引き渡し、暫定パパは帰っていった。

山小屋には明かりがなかった。
魂を惑わす悪いエネルギーから解放されるための場所、みたいにカラスのオッサンは説明した。
壁伝いに松明みたいなのが等間隔で置かれている。
床は畳だし倒れたら秒で燃えそうだ。

照明はないのにテレビはあって、カラスはそこにDVDをセットし、「これを見たあと、あなたの魂が善性のものに転化したか、試問に答えてもらいます」とか言って部屋から出て行った。
戦争とか途上国の映像がしばらく続いた。
急にテンションが変わって世界の成り立ち、みたいな話がはじまった。

すべてが善でできてる世界があって、それをそっくり裏返しにした悪の世界が鏡のように広がっている。
2つの世界が接するところが人間たちの世界で、だからあらゆるものに善と悪の因子が宿っている。
善は善と結びつき悪は悪と結びつく性質があるから、善と交わりながら善を育てていかなきゃいけない。

ただし、悪は善のふりをするのが上手いから、この世は善の顔した悪によって混乱させられている。
悪を見極めるのには高い純度の善が必要。

どぎつくライトアップされた教祖っぽいのが出てきた。
部屋がやたら明るくなった。
目に優しくない高純度の善に腹が立ち、テレビを壁に投げつけた。
高純度の善は消滅し、松明が一本倒れた。

目玉をギョロつかせたカラスが飛び込んできた。
畳に燃え移った炎を見て「なんと愚かな」とか言ってまた出て行った。
水道の音がする。私は小屋から抜け出した。

そのまましばらく家に帰らなかった。
公園のベンチで寝てたら今度は酔っ払ったフクロウみたいなオッサンに声をかけられた。
やべーかな、と思ったけどカラスの山小屋よりはマシに思えた。
目の焦点も合っていない。どうとでもできそうだと着いていくことにした。

ふらふら前を歩くオッサンの尻ポケットから財布がはみ出ていた。
抜き取ってみた。
気づく素振りはない。
そのままスキを見て逃げた。
2万ちょっと入ってた。
財布は川に捨てた。

1週間くらいで金はなくなった。
このまま盗賊として生きようかと思った。してもいない援交の値段をつけられるのだから、してもいない援交の代金をかっぱらっても問題ない気がした。

結局、酔っ払いを探しているうち補導された。
パクりはバレなかった。
ママと暫定パパは普通の人のふりをしていた。
この世は善の顔した悪によって混乱させられている。


[連載小説]像に溺れる

第1
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