しばらく川沿いに歩いてみることにした。
次はデカい岩だ。
このまま川沿いのどこかにあるのが自然な気がする。
いま視界にある岩よりデカいの、ときたらやっぱり上流だろうか。
川を見つけて、すっかりオリエンテーリングにノセられている。
実際、さっきは少しビビってたんだろう。
不安とのギャップで変にテンションが上がっている。
ビギナーズラックでギャンブルにハマる人はこういう感じなんだろうか。
そう思うと、こういう心理を計算に入れてスタート地点が決められていたようにも思う。
まっすぐ進めば、ちょうど不安になる頃に川が見つかる程度に。
実際、川に沿って歩いているうち、三人の山吹色に遭遇した。
最初の一人は30歳くらいの自信なさげなオッサンで、しばらく固まったあと、私の後ろについてきた。
キモいけど、かなりの距離が空いてるし、何かをしてきそうな気配はない。
それから遭遇した二人も、無言でオッサンの後ろについてきて、遠慮がちなサザエさんファミリーみたいになった。
たぶん、川に沿うようにスタート地点を設定しているんだろう。
どのくらい歩いただろう。
あれ、やっぱ下流の方だったんじゃね、みたいな考えが浮かび、後ろの方からもなんとなく、お前間違ったんじゃね、みたいな心の声が聞こえてくる気がする。
知ったことかと意地になって進んでいると、岩というか、でっかい黒い玉が視界に入ってきた。
自然物のなかで、ゆがみのない球体が異様な存在感を放っている。
間違いなくこれだった。
ほれ見ろ、あったじゃねぇか。
振り向くと、どいつも私のことなど構わず、玉を見て安心した表情を浮かべている。
思うつぼじゃねぇか、と思ったが、私も人のことを言えそうにない。
皆、我先にと水を汲み、黒い玉の周囲をぐるぐる回る。
さぞ薄気味悪い光景だろうと思いつつ、私もその一員に加わった。
急いで課題をクリアしたはいいが、神木的なのがどこにあるのか、見当がつくやつはいないようだった。
悩んで足を止めているうちに、無言のファミリーが二人増えている。
互いにちらちら様子を窺い、誰かが出発しているのを待っている。
責任回避ムーブが惨めに思え、ともかく私は出発することにした。
みんながついてきて間違っていたら、それはそれで面白いと思ったからだ。
閃いた、みたいな感じで立ち上がり、自信満々な風を装い森の中に入っていく。
デタラメに歩いてやろうと思っていたのに、神木的なのは案外あっさり見つかってしまった。
その辺の木が五本くらい合体したようなグロくて太い幹に、それらしく縄が通されている。
ファミリーが困る様子を見たかったけど、なかなか思い通りにはいかない。
逆にこいつすげえ、みたいな目で見てくる。
いまなら私も教祖的な何かになれそうだ。
誰もが責任回避ムーブに走るなか、先陣を切って成功すれば救世主だし、失敗すれば大戦犯だ。
本質的にはどっちも似たようなものなのに、世間の評価は運ゲーで決まるっぽい。
幹に水をかけようと思った途端、どこかから怒鳴り声が響いてきた。
少し遠くて言葉ははっきりしないが、三人ぐらいの男が言い争っているように聞こえる。
脳内で何かが唸りはじめて、体が勝手にそっちの方に向かっていく。
近づくうちに、怒鳴り声には悲鳴が混じるようになり、それからぴたりと止まってしまった。
木の陰から一瞬、山吹色の男が両脇からラベンダー色に抱えられ、どこかに連れて行かれる様子が目に入る。
追いかけてみようと思うが、そこまでの間にデカめの水溜まりがあって、ちょっと無理そうだ。
というか、おそらくそれが近づいちゃいけない沼だった。
もうちょっと、小さい湖くらいのものを想像していたのに、やたら浅いし、周りの泥との境界も曖昧だ。
何かの囲いがあるわけでもなく、普通に、気づかないまま近づいてしまいそうな水溜まりだった。
エレキギターが鳴っている。
連れ去られた山吹色は、こんな下らないもので失格扱いをされたんだろう。
失格は実際どうでもいいが、まるで自分たちでゴウが生まれる原因を作っているみたいに思える。
いや、でもルールってそういうもんだっけ?
誰かをハブるために設定されたルールなんてそこら中に転がってるようにも思う。
わからない。
誰かをハブって、一体誰にどんな得があるんだろう。
性格の悪いやつが、気に入らないやつをイジメてるわけでもないのに、人が集まりゃハブられるのが出てくる。
それが私にはわからない。
[連載小説]像に溺れる
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