「お前はどうなりたいんだよ」
やたら上からの言葉が口をついて出てくる。
やっぱりそのまま、自分に返ってくる気がした。
「ないよ、そんなの。いなくなりたい」
坂本の答え以上のものを、私も見つけられそうにない。
「無理じゃん」
「わかってるよ」
沈黙がつづく。
年上っぽく振る舞わなきゃいけない気もするが、そんな引き出しは私にはない。
俯く坂本の横顔は、拗ねた幼稚園児の面影を残している。
「まだ、どうにでもなんだろ」
自分はどうだろう?
手遅れと思っているだけなんだろうか。
「どうしろってんだよ」
「知るかよ」
「つかえね」
「人に頼ってっからそうなってんだろ」
坂本がガン飛ばしてくる。
余計な一言だった。
自分に言い聞かせようとしたのだろうか。
いつまでも、人のせいにしておくわけにはいかない。
しばらく気まずく押し黙る。
と、どこからともなくデラウェアのオッサンがやってきて、「間もなく最後の儀式が始まります」と告げられた。
敷地の一番奥、ラスボスみたいに控える金色の塔まで連れて行かれる。
中に入ると、真っ白な空間が広がっている。
映画館でいうロビー的なところなのか、入り口の向かいの壁に大きめのドアが四つ設置されていた。
デラウェアのオッサンはそこには入らず、脇にある螺旋階段を上りはじめた。
やたら長い階段を7階か8階 、ともかく最上階まで昇り、坂本と二人でぜぇぜぇ言ってる。
不登校とニコチン中毒じゃしょうがない。
最上階も下と同じ構造で、眩しい白にそろそろ目がやられそうだ。
扉の向こうの光景には既視感があった。
デカい目玉を祀った祭壇と、その手前に4 本の柱で囲われたスペース。
ボダイノニワと同じつくりだ。
ただ、規模的には軽く3 倍はありそうに見える。
柱の内側にはすでに山吹色たちが並んでいる。
普通にそっちに向かおうとしたら、オッサンに遮られた。
「あなた方の魂は、沼によって不浄の状態にあります。こちらに」
そう言って示されたフロアの隅には、馬小屋みたいな木製の囲いがあった。
マジかこいつら、と思うけど、案の定坂本とそこに入る羽目になった。
檻とは違って、柵になっているのは腰の高さにある木板だけなので、出ようと思えば屈んで出られる。
が、入ってみるとやっぱり収容されてる感じがヤバい。
人間扱いされてない感覚に、脳がコゲついていくのを感じる。
家族旅行で馬小屋に入れられるなんて、私と坂本くらいのものだろう。
「廊下に立たされたみてぇだわ」
何かを口に出さないと、尊厳がどっかに吹き飛んでしまいそうだ。
「廊下に立つとか今時あんのかよ」
坂本の声が心なしか震えている。
やっぱこれキレるとこだよな、と少し安心している自分がいた。
と、ガチ勢の人たちがフロアに入ってくる。
暫定パパの冷たい目。
ママは例の憔悴したような表情を浮かべ、こっちには目もくれない。
犯罪でもしでかしたような気持ちになってくる。
坂本の母親は、悲痛な面持ちで息子を見ている。
突然、坂本が木枠に蹴りを入れ、小屋がミシッと揺れる。
「そんな目で見んじゃねぇ、クソババア」
素っ頓狂な叫び声とともに、坂本が脱出し、母親の方に突進していく。
デラウェアのオッサンその他が早足でコースに入り、坂本を3 人がかりで押さえつけた。
もみくちゃになりながら、ざけんな、クソが、みたいな言葉が聞こえてくるが、間もなくフロアの外に連れ出されていった。
坂本の母は終始怯えた表情で眺めている。
[連載小説]像に溺れる
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